近年は、環境問題への配慮から、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーが普及しつつあります。
再生可能エネルギーの大量導入における課題のひとつとして、電力系統全体として慣性が低下することがあげられます。
ここでは、電力系統の「慣性」の考え方について、火力・太陽・風力発電を比較しながらまとめます。
慣性をもつ電源の例:火力発電
火力発電は日本で消費される電力の大部分をまかなっています。
資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版」によると、日本の化石燃料への依存度は83.2%です。
火力発電では、同期発電機を使用します。
同期発電機は、電力系統の周波数に合わせ、一定の速度で回転し続ける性質があります。
電力系統には多くの同期発電機が連系し、回転速度を合わせて(=同期して)運転しています。
ここで、大規模な同期発電機が故障で停止してしまったと仮定してみましょう。
すると、系統に連系されている他の発電機が、系統の周波数を維持しようとします。
周波数を維持するためには、停止した発電機の出力を補うため、連系している発電機の出力を増加する必要があります。
発電機の出力を増加するためには蒸気の量を増やす必要があり、蒸気の量を調整する弁の開度を自動で調整しています。
これを「ガバナフリー」運転といいます。
ただ、ガバナフリーの効果が現れるまでは少し時間がかかります。
その短時間の間に周波数が大きく変動しては困りますね。
そこで、ガバナフリーの前に、電力系統の慣性が作用します。
運転中のそれぞれの発電機がもつ慣性(同じ速度で回転しつづける性質)により、ガバナフリーの効果が現れるまでの周波数変動を抑制しているのです。
このように、慣性は、電力系統の安定化に寄与します。
慣性をもたない電源の例
火力発電とは反対に、慣性をもたない電源の例をあげます。
いずれも再生可能エネルギーとして注目されている電源です。
太陽光発電
太陽光発電で使用する太陽電池モジュールは、回転する部分がありません。
つまり、そのままでは慣性をもちません。
なお、太陽光発電で発電される電力は直流ですから、電力系統に連系するためには変換器によって直流を交流に変換しなくてはなりません。
風力発電
それでは、風力発電はどうでしょうか。
ブレード(風車の羽根)は風を受けて回転しますので、慣性がありそうですよね。
ところが風力発電も、そのままでは慣性をもちません。
回転するという点では火力発電と同じです。
それでは、火力発電は風力発電は、どのように異なるのでしょうか。
火力発電で使用される同期発電機は、蒸気をコントロールすることによって、電力系統の周波数に合わせて一定速度で回転させることができます。
一方で風力発電では、風によりブレードの回転速度が変わります。
自然現象である風をコントロールすることはできないため、発電機の回転速度のコントロールは困難です。
このため、風力発電では同期発電機を系統に直接連系することができません。
そこで、風力発電に同期発電機を使用する場合は、発電した交流の電力をいったん直流に変換し、ふたたび交流に変換することで系統と連系しているのです。
つまり、変換器を介することにより、慣性が得られなくなってしまうのです。
なお、風力発電には誘導発電機を用いる方式もありますが、誘導発電機では、系統の周波数を維持するように作用する慣性の効果は期待できません。
擬似的に慣性をもたせる研究が進んでいる
慣性をもたないからといって、太陽光発電や風力発電を大量導入することは不可能なのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
現在は、電力系統への連系に必要となる変換器の機能として、擬似的に慣性をもたせるような研究が進められています。
この研究により、再生可能エネルギー大量導入における課題のひとつである「系統の慣性低下」を克服できる可能性があるのは、明るい話題ではないでしょうか。
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