再生可能エネルギー

電力系統の慣性低下による周波数変動

従来の火力発電の大部分が、太陽光発電や風力発電などに置き換わってくると、電力系統にどのような影響を与えるでしょうか。

上の項では、「火力発電は慣性をもち、太陽光発電や風力発電はそのままでは慣性をもたない」ことを紹介しました。

つまり、火力発電の多くが太陽光発電や風力発電などに置き換わってくると、系統の慣性が低下します。

そして慣性が低下すると、周波数が変動しやすくなります。

ここでは、慣性低下による周波数変動についてまとめます。

周波数を維持することの重要性

まず、周波数を維持することはなぜ重要なのでしょうか。

周波数が変動すると生じる問題として、たとえば次のことがあげられます。

  • 工場の生産ラインで使用される機器が正常に動作せず、製品の品質に影響を与えたり、ラインが停止したりするなど、産業にダメージを与える
  • 家電製品が正常に動作せず、さらに故障につながる
  • 発電を担う火力発電機にダメージを与え、大規模停電につながる

周波数を維持することは、電力系統全体にとって非常に重要です。

需要と供給の関係

本記事において、「需要」と「供給」は次の意味で使用します。

  • 需要:系統全体で「使用される」電力
  • 供給:系統全体で「発電される」電力

平常時は、「需要=供給」の関係が成り立つように系統全体で制御されており、この関係が大きく崩れることはありません。

「需要=供給」の関係を、「同時同量」と呼ぶこともあります。

たとえば需要と供給のいずれかが大きく変化すると、瞬時には制御しれなくなる、または制御できる限界を超えてしまうことにより、「需要=供給」の関係が大きく崩れます。

そして、結果として周波数が変動します。

たとえば、需要が大きくなれば周波数は低下し、需要が小さくなれば周波数は上昇します。

この関係を表にまとめると、次のようになります。

需要と供給の関係需要>供給需要<供給
周波数低下上昇
需要と供給、周波数の関係

慣性が十分にある系統では、周波数変動の抑制にガバナフリーが有効

需要が供給を上回る例として、次のようなケースがあります。

  • 大規模な発電機が故障で停止(供給が減少)
  • 大規模な発電所から送電するための送電線が系統事故により使用不可になる(供給の減少)

つまり、系統からみると一部の発電機がなくなってしまった状態です。

このとき、残された発電機は、ガバナフリー運転により回転速度を維持しようと制御します。

ガバナフリー運転とは、火力発電や水力発電などにおいて、弁の開度を変えることで系統の周波数を維持しようとする運転です。

火力発電では蒸気をコントロールし、水力発電では水をコントロールします。

発電機の回転速度が上昇すれば弁を閉じ,回転速度が低下すれば弁を開きます。

ただし、ガバナフリーは弁を動作させるので、瞬時に効果が現れるわけではありません

効果が現れるまで、多少は時間がかかってしまうのです。

ガバナフリーの効果が現れるまでの時間はどうなのかというと、電力系統の慣性がカバーしています。

つまり、同じ速度で回転し続ける性質である「慣性」によって、発電機の速度を低下させるような力がはたらいても、ある程度は速度を落とすことなく回転し続けることができます。

同期発電機が速度を低下させないということは、系統の周波数も一定に保たれることを意味します。

慣性が低下した系統では、ガバナフリーの効果が得られにくい

次に、再生可能エネルギーの大量導入により系統の慣性が低下した状態を考えてみます。

大規模な発電機が故障で停止したり、大規模な発電所からの送電線が系統事故により使用不可になったりするケースに加え、急な天候の変化により太陽光発電の発電量が低下するケースも考えられるでしょう。

このとき、需要はそのままで、供給が低下します。

すなわち、需要が供給を上回った状態となります。

すると、系統の周波数は低下します。

系統に十分な慣性があれば、周波数がさほど大きく低下することはないでしょう。

しかし、系統全体としての慣性が低下している場合はどうでしょうか。

ガバナフリー動作前の周波数の変化が大きくなってしまいます。

この、周波数が低下するスピードを周波数変化率(RoCoF)といいます。

さらに、慣性が低下した系統では、周波数変化率だけでなく、周波数の低下幅も大きくなります。

つまり、慣性が低下した系統では、ガバナフリーの効果が現れる前に周波数が大きく低下する傾向があります。

ところで、発電設備には、系統の周波数低下を検出して発電機を停止させる装置が設置されています。

ひとたび発電機の停止が始まると、運転中の他の発電機も次々と停止してしまうおそれがあります。

そうなると、供給がさらに小さくなり、周波数もさらに低下します。

まさに負のループに陥り、最終的には大規模停電につながるおそれがあるのです。

周波数の「上昇」に対しても同様

以上は、需要が供給を上回り、周波数が低下するケースで説明しましたが、反対に周波数が上昇する場合でも概ね同様のことがいえます。

周波数が上昇するのは、たとえば次のようなケースが考えられます。

  • 急に晴れてきて、太陽光発電の出力が急激に上昇した
  • 工場などの大きな負荷が、事故により系統から切り離された

周波数は、上昇しても低下しても問題を引き起こすので、両方とも阻止しなくてはなりません。

まとめ

日本にいると、停電を経験することが少なく感じられます。

台風や大地震など災害時は例外ですが、普段は停電しないことが当たり前になっています。

再生可能エネルギーの大量導入などにより、電力系統の構成が大きく変わると、停電しないという当たり前のことが、当たり前でなくなってしまうおそれがあります。

再生可能エネルギーには大きな利点がありますが、その課題にも目を向けなければならないと考えています。

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