三相交流を勉強していると、「なぜ三相交流が使われるのか、いまいち理解できない。」と感じることがある。
そこで本記事では、三相交流が使われる理由、メリットをまとめる。
三相交流の身近な例
いちばん身近に三相交流を見ることができるのは、電柱に架けられている電線だろう。
屋外にある電柱の上のほうをみてみると、3本の電線がある。
日本にある電柱の電線(配電線)では、主に電圧6,600Vの三相交流が使用されている。
さらに高いところに目を向けると、電柱よりも大きい、送電鉄塔がある。
送電鉄塔の場合は、3本2組で計6本の電線が架かっているケースが多い。
鉄塔にも三相交流を使用している。
三相なので、2本3組ではなく、3本2組である。
※2組あるのは、片方の組の不具合時に、もう片方で電気を送ることができるようにするなどの目的がある。
三相交流のメリット
教科書で交流回路を学ぶときには、最初は単相交流回路が登場する。
単相交流回路は行きと帰りの電線が1本ずつなので、シンプルでわかりやすい。
それに対して三相交流回路は、単相交流回路を3個くっつけたような形になっている。
なぜこんな複雑なことをするのだろうか?
メリットが無いのなら、こんなことをする必要はないはずだ。
三相交流にすることで何がいいのか。
以下では、単相交流ではなく三相交流を使用するメリットをまとめる。
電線を減らすことができる
一般に電気は、「作られる場所」と「使われる場所」が遠く離れている。
わたしたちの使う電気の大部分は、火力発電所で作られる。
最近は再生可能エネルギーも普及しつつあるが、依然として、総発電量のうち火力電源が大きな割合を占める。
資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版」によると、日本の化石燃料への依存度は83.2%となっている。
つまり、日本で使われている電気の大部分は海辺の火力発電所で発電され、長距離を輸送されてくる。
電気を長距離輸送するということは、必要な電線も長くなる。
ここで、「単相交流回路3つ」と「三相交流回路1つ」のそれぞれを使用して同じ電力を送る場合を比較してみる。
計算過程は省略するが、「三相交流回路1つ」の場合に必要な電線の長さは、「単相交流回路3つ」の場合に比べて半分になり、大幅なコスト削減になる。
送電線(送電鉄塔に架けられた電線)は、山奥にもある。
配電線(電柱に架けられた電線)は、いたるところにある。
送電鉄塔や電柱に電線を張る作業も一苦労。
使用する電線が増えると、電線を買うお金がかかるだけでなく、電線を張る作業も大変になる。
このため、電線を減らすことができることは三相交流の大きなメリットのひとつとなる。
電力損失が少ない
電線も抵抗であるから、距離が長いとそれだけ電力損失が大きくなる。
電気を送る過程で、一部は熱になって消費されてしまうのだ。
三相交流を使うと、この消費されてしまう電力(電力損失)を半分に減らすことができる。
電線の使用量が半分ですむだけでなく、電力損失も半分になる。
化石燃料は貴重な資源だ。また、燃焼により温室効果ガスも発生する。
電気を送る過程における電力損失を減らすことができれば、化石燃料の消費量を抑えることができる。
このため、電力損失が少ないことも三相交流の大きなメリットのひとつとなる。
負荷の大部分を占めるモータに適している
日本で使用される電力の半分以上はモータが占めている。
「日本電機工業会」の資料からは、いかに多くのモータが国内で使用されているかが分かる。
- 業務用・家庭用・産業用を合わせたモータの普及台数は約1億台あり、我が国の全消費電力量の約55%を占める
- 産業用モータによる年間の消費電力量は産業部門の消費電力量の約75%を占めると推計されている
参考:「地球環境保護・省エネルギーのために トップランナーモータ」2021年版
負荷の大部分を占めるモータに適しているため、三相交流を使うことはメリットがある。
次に、三相交流が単相交流よりもモータに適していることを、効率および回転磁界の観点から説明する。
三相モータのほうが効率が良い
家庭用の扇風機などには単相モータが使用される。
一方で、産業用など大型モータの多くは三相モータであり、三相交流を電源として使用する。
理由は、単相モータよりも三相モータのほうが効率が良いからだ。
大型であるほど(消費電力が大きいほど)、効率の悪さによる電力損失の大きさが目立ってくる。
大型モータの消費電力は、日本で使用される電力の多くを占めているため、効率の良さは重要だ。
三相交流では回転磁界を得られる
三相交流を使用することで、モータを回転させる回転磁界を得ることができる。
まず、交流の電気を使ってモータを回すことを考える。
単相交流によって得られるのは「交番磁界」である。
交番磁界は、次のように磁界の大きさと方向が変化する。
- ある方向の磁界が大きくなる
- 大きさが最大になったあと、同じ方向で磁界が小さくなる
- 2とは反対向き(180度違い)に磁界が大きくなる
- 同じ方向で磁界が小さくなる
- 1に戻り、繰り返す
ポイントは、磁界の方向が反対向きになる(180度変化する)のを繰り返している点だ。
この「交番磁界」では静止しているモータを回転させる力が働かないため、そのままではモータを始動させる(回し始める)ことができない
このため、単相モータは何らかの工夫をしないと始動させることができず、始動用の回路を追加することになる。
しかし、大型モータも含めてすべてのモータにその回路を追加するのは現実的ではない。
余計な回路が入るということは、故障のしやすさにもつながる。
そこで、三相交流のメリットが生きてくる。
三相交流では、「回転磁界」を得ることができる。
これにより、単相モータのように特別な工夫をしなくてもモータを始動させることができる。
回転磁界は、その名の通り回転する磁界なので、静止しているモータに回転する力を与えることができるためだ。
三相交流では回転磁界を得られるため、三相モータには始動用の余計な回路が不要になることがメリットのひとつとなる。
おわりに
三相交流のメリットについて、電気を「作る・送る」側と、電気を「使う」側の両方の観点からまとめた。
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