車のバッテリーあがりのときに、ブースターケーブルを使用して他車から助けてもらうことがある。
ブースターケーブルの接続順序として、プラスから接続することが推奨されている。
本記事では、電気回路の観点から、ブースターケーブルの接続順序を考察する。
執筆にあたり、次の点に配慮した。
- ブースターケーブルをつなぐ順序を覚えやすくなる
- バッテリーがあがってしまったときにスムーズに対処することができるようになる
結論 プラスからつなぐ
結論としては、ブースターケーブルは「プラスからつなぐ」のが正解だ。
一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)の公式サイトでは、次のように説明されている。
一番重要な端子をつなぐ順序は以下の通りです。
1.上がった車のプラス
JAF「[Q]車のバッテリー上がりと応急処置」
2.救援車のプラス
3.救援車のマイナス
4.上がった車のマイナス(端子ではなくエンジンの金属部分など)
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-trouble/subcategory-support/faq267
(閲覧日 2024/03/01)
筆者にて太字装飾
それではなぜ、プラスからつなぐのだろうか。
マイナスからつなぐと、何がいけないのだろうか。
2台の車を電気回路として考えると答えがわかる。
電気回路として考えた車のボディ
車は、バッテリーを電源とする電気回路と見なすことができる。
バッテリーの電流はプラス端子からスタートし、電気を必要とする機器群に流れ、最終的にマイナス端子に戻ってくる。
バッテリーのプラス端子 → 機器群 → マイナス端子
ここで、「バッテリーのプラス端子~機器群」の区間は電線で接続されている。
しかし、「機器群~バッテリーのマイナス端子」の区間には電線がない場合がある。
それでは、なぜ電流がマイナス端子に戻ってこられるのだろうか。
答えは、ボディは金属であり、電線の代わりに電流の通り道として利用できるからだ。
これがボディアースである。
バッテリーのプラス端子 → 電線 → 機器群 → ボディ=マイナス端子
ボディがマイナス側の電線の代わりになることを踏まえて、2台のバッテリーのマイナス端子同士を先につなぐことがなぜ危険か、考えてみる。
マイナス端子同士がつながる=ボディ同士がつながる
2台の車のバッテリーの、マイナス端子同士を接続すると、電気的にはどうなるだろうか。
バッテリーのマイナス端子同士を接続することは、ボディ同士を接続することを意味する。
ところが車のボディ同士が電気的に接続されただけでは、まだ危険ではない。
バッテリー1のプラス端子 → 機器群1 → ボディ1=ボディ2(電気的に共通)
バッテリー2のプラス端子 → 機器群2 → ボディ1=ボディ2(電気的に共通)
ボディ同士がつながった状態でプラス端子同士をつなごうとすると
次に、車のボディ同士が電気的に接続された状態で、バッテリーのプラス端子同士をつなごうとすると、どうなるだろうか。
目標としては、次のようにしたい。
プラス端子(バッテリー1=バッテリー2) → 機器群1 → ボディ1=ボディ2
プラス端子(バッテリー1=バッテリー2) → 機器群2 → ボディ1=ボディ2
ブースターケーブルは、クリップの金属が露出している。
その状態で、片方のバッテリーのプラス端子にブースターケーブルを接続したとする。
すると、ブースターケーブルの反対側のクリップ部分には、片方の車のプラスの電気がある状態となる。
次にそのクリップを、もう片方のバッテリーのプラス端子につなぐ。
このとき、もしもブースターケーブルのクリップがボンネットやボディに触れてしまったらどうなるだろうか。
バッテリー1のプラス端子 → ブースターケーブル → ボディ2に接触=ボディ1に接触=バッテリー1のマイナス端子に接触
電気的には、同じバッテリーのプラス端子とマイナス端子を接続したことになる。
ここでのポイントは、車1から出たブースターケーブルを車2に接触させた場合であっても、電気的に自身(車1)のバッテリーに接触したことを意味する。
つまり、ショート(短絡)そのものであり、たいへん危険だ。
ヒューズによる保護も期待できない。
ブースターケーブルが燃え出すかもしれないし、バッテリーおよび回路全体に大きなダメージを与える恐れもある。
プラスから先につないでも危険ゼロではない
それでは、プラスから接続すれば危険はゼロになるかというと、そうではない。
これはシンプルに1台だけで考えてみるとわかる。
プラス端子に接続したブースターケーブルの反対側のクリップを、自身のボディ(金属部分)に接触させたら、それもショートである。
バッテリー1のプラス端子 → ブースターケーブル → ボディ1に接触=バッテリー1のマイナス端子に接触
この危険を減らすために、プラス端子はプラス端子でも、バッテリーがあがった車のプラス端子から先にケーブルをつなぐのが有効だ。
さきほどのJAF公式サイトの説明から、手順1と2を再掲する。
1.上がった車のプラス
2.救援車のプラス
最初に接続するのは救援される側とされている。
救援される側であれば、バッテリーが弱っているため、仮にショートしてもダメージは小さい。
一方で救援する側はバッテリーが元気で、ショートしたときのダメージが大きい。
ショート対策
結局のところ、接続順序にかかわらず、ブースターケーブルの金属部分を他の部分に接触しないように注意することが重要だ。
たとえばブースターケーブルのクリップ(接続していない方)にビニルテープを巻いておくと、誤ってボディなどに接触させてもショートの危険はなくなり、安全に作業できる。
手間はかかるが、ケガや車の損傷を防止できることを考えれば、やっておいて損はない。
あとがき
筆者は学生時代に、実験・製作で使用していた車のバッテリーを誤ってショートさせ、電線が燃えてしまったのを近くで見た経験がある。
さいわい大事には至らなかったものの、そのインパクトは強烈で、ショートの恐ろしさを痛感した出来事でもあった。
電気の現場でも、直流短絡は、同じ電圧の交流短絡よりも悲惨な災害になる傾向があると感じている。
車にはボディアースなどもあり、鉛蓄電池が組み込まれた車体が電気回路的にどのようになっているのかが分かりにくくなる。
また、ブースターケーブルは一般に売られているため、必ずしも上記の知識がある人だけが使うとは限らない。
12Vでは感電の危険は少ない(条件による)が、短絡したときの危険は大きなものである。
本記事がブースターケーブルの安全な利用にお役に立てば幸いです。
コメント